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心狸学・社怪学

あるきっかけで天袋から引っ張り出して、しばらくぶりに読み返した。
そうしたら、意外なほどはっきりと文章を覚えていた。
「エスキモーの白熊狩り」だの「ホッテントットのヒマラヤ攻め」などというフレーズも記憶していた。

あれっ。
この『社会学・心理学』は私の生まれる前に書かれている。
改めて巻末年譜でそう確認したら、なぜか驚いた。

アタマのどこかで、筒井康隆が同世代であるかのような錯覚をしているようだ。

年譜によれば、発表は昭和四十四年。当時著者三十五歳。
そりゃそうだ。筒井康隆は昭和九年生まれなのであって、年譜を読むまでもなく、冷静に考えたら同世代なわけがない。
今や立派な爺さんなのである。
作品中の「現代」世相だって、サイケやら安保闘争やら、むしろ親の青春時代のそれである。
しかし、気を抜くと脳が計算違いをしてしまう。

長年ファンでいて、もちろん年齢も風貌も知っているのに、そうした錯覚が抜けきらない。
十代の若い頃に文庫本が出るたび買って読んでいたせいだろうか。
筒井文学の青春期に、十代の青春期というタイミングで出会ったからだろうか。
同じ頃にやはり夢中になって読んだ星新一や小松左京に対しては「大人の人」という感覚があったように思うし、計算違いはおこらないので、不思議である。不思議だが、めんどうくさいので分析するのはおっくうである。

ひょっとして、十代の頃に太宰にはまってた人なんかも、そんな計算違いの感覚があるのだろうか。





筒井康隆
社怪学・心狸学




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行李の中

しかし
考えてみれば

世の中には
役に立たない物の
方がはるかに
多い

…しかもそっちの方が
美しく見えるのだから
別にいいじゃないか


その通り。役に立つことが即ち物の値打ちではない。人の値打ちでもない。

そう思います。




今市子
百鬼夜行抄 4





蒸発

田舎道。
薄ピンクの地味なスーツを来た女に手を引かれ、木造アパートを訪ねる。

錆びた外階段を上がり、暗い廊下を渡り、粗末な部屋に連れて行かれる。

畳の部屋。
老人が正座している。
その真正面に女と並んで座る。

紙に包まれた干菓子をすすめられる。
もそもそして旨くないが、老人が見つめているので、小声で「旨いです」と言う。

老人がほら穴の口で叫ぶ。
「よう見切った、これは口の奢った者にしか分からぬ最上等の菓子也」

女が流しの下から菓子の箱を見つけ「それ半額よ」とささやく。

老人は機嫌が良いように見える。
次はコレを、と老人がアジシオの瓶を出す。
湿気て固まった塩がわずかに残っている。

「これなるは代々秘伝の塩じゃ、一度この味を知った男はこの輝きを求めて止まぬようになる」と言いながら、青白い手の甲に塩をふってこちらへ差し出す。

身をよじって、立ちあがると老人も立ちあがって回り込む。
部屋の隅に追い詰められる。
老人は許さず「さあ試してみよ」と詰め寄る。

小声で「それは、アジシオです」と抗議する。

そこへ突然、そそけだった髪の太った婆さんが土足でのしのしと上がり込み「さあ大名の支度をしろ」と老人を責め立てる。

老人は裸に燕尾服を着させられる。

連れの女が「体の塩梅がわるうございますので帰らせていただきとうございます」と口実を言うと、老人は彼女を引き留め「婦人の体に良いからこれを持っていきなさい」と『蜆』と墨で書かれた、いやなかんじの折り詰めを渡す。

女は「残飯を有難う存じます」とおしいただく。
老人は怒気をはらんで女をにらみつける。

女に急かされて外の畦道を逃げるように歩いていると腰に衝撃。

見ると老人が巻き付いている。
遠くから婆さんの怒声が聞こえる。


夢の中で私はハマカーン浜谷某の姿をしており、老人は山井書店の主人あるいは柳の家井月にそっくりだった。


つげ義春
無能の人




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鳩野ふみ
性別:
女性

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