田舎道。
薄ピンクの地味なスーツを来た女に手を引かれ、木造アパートを訪ねる。
錆びた外階段を上がり、暗い廊下を渡り、粗末な部屋に連れて行かれる。
畳の部屋。
老人が正座している。
その真正面に女と並んで座る。
紙に包まれた干菓子をすすめられる。
もそもそして旨くないが、老人が見つめているので、小声で「旨いです」と言う。
老人がほら穴の口で叫ぶ。
「よう見切った、これは口の奢った者にしか分からぬ最上等の菓子也」
女が流しの下から菓子の箱を見つけ「それ半額よ」とささやく。
老人は機嫌が良いように見える。
次はコレを、と老人がアジシオの瓶を出す。
湿気て固まった塩がわずかに残っている。
「これなるは代々秘伝の塩じゃ、一度この味を知った男はこの輝きを求めて止まぬようになる」と言いながら、青白い手の甲に塩をふってこちらへ差し出す。
身をよじって、立ちあがると老人も立ちあがって回り込む。
部屋の隅に追い詰められる。
老人は許さず「さあ試してみよ」と詰め寄る。
小声で「それは、アジシオです」と抗議する。
そこへ突然、そそけだった髪の太った婆さんが土足でのしのしと上がり込み「さあ大名の支度をしろ」と老人を責め立てる。
老人は裸に燕尾服を着させられる。
連れの女が「体の塩梅がわるうございますので帰らせていただきとうございます」と口実を言うと、老人は彼女を引き留め「婦人の体に良いからこれを持っていきなさい」と『蜆』と墨で書かれた、いやなかんじの折り詰めを渡す。
女は「残飯を有難う存じます」とおしいただく。
老人は怒気をはらんで女をにらみつける。
女に急かされて外の畦道を逃げるように歩いていると腰に衝撃。
見ると老人が巻き付いている。
遠くから婆さんの怒声が聞こえる。
夢の中で私はハマカーン浜谷某の姿をしており、老人は山井書店の主人あるいは柳の家井月にそっくりだった。
つげ義春
無能の人

http://
PR