伊藤野枝については、ダダイスト辻潤の妻でアナキスト大杉栄の愛人、甘粕大尉に殺された、というほどのことを知っていた。
その姿は過激で先進的な女性活動家、丸尾末広が帝都大戦の口絵に描いた無惨絵みたく、またはエロス+虐殺などという映画(見てないけど)のタイトルみたく、血みどろだった。
読後の野枝は、茨の垣根越しに笑う、手襷がけの姿に変わった。
この野枝は強くも弱くもない、ただ共感できる女だ。
小柄な体に血や魂が詰まっている。
彌生子は、徹底的な救助の出来ない以上みだりに他人の生活に立ち入るのはいけないという節度をもちながら、この年下の友人を強く哀しんでいる。
夜に読んで寝て、悲しく甘いような余韻が翌日の日が高くなる頃まで続いた。
文章が美しいためでもあると思う。
精選女性随筆集 十
文藝春秋

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