新宿のファミレスでるきさん片手に昼食をとっていたときのこと。
隣のテーブルはダークスーツのビジネスマン三人連れであった。
上司らしき紳士が若い部下二人を相手に、「俺の幸福論」を語っている。
それを聞くともなしに聞きながら、私も彼ら同様、安いパスタを食べていた。
紳士の幸福論は仕事と余暇と向上心という三題噺から語り起こされ、旅人と職人が登場し、企業人として私人としてどう生きるべきかを説き、イノベーションや積極性やグローバリズムの話に至った。
三人連れだが、声を出すのは始終一人きりである。
きっと尊敬すべき上司なのだろう、部下二人は黙って神妙に聞いている。感銘をうけている、という体で。
若者たちがかしこまり、うなずくほどに紳士は調子を上げて。
それを盗み聞きながらるきさんを楽しんでいるのは、なにかをちゃっかりとかすめとっているようなシアワセで、無表情をきめこんでいても、ひきむすんた口元がぴくぴくするので困った。
漫画を読んでにやにやしてるのだから怪しくはないのだろうが。
しばらくしたら盗み聞きにも飽きたけれど、るきさんがひょいとイタリアへ行き、炊きたてごはんとほんとうのイタリア料理を食べてる最終回に至って、とうとう、声がうふふふと漏れてしまった。
何度も読んだが、しばらくすればまた読むだろう。
るきさんのしがらみのない理想化されたような独身生活を楽しむたびに微かに気になることは、彼女の恋愛についてである。
るきさんに恋愛経験はありやなしや。
恋愛に対する彼女の反応はいかなるものか。
高野文子
るきさん

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